公的年金の「財政検証」を「検証する」(下)
- 2024.7.22
- 経済
公的年金の「財政検証」の結果が公表され、前回、5年前より年金の将来見通しが改善したことから、検討されてきた国民年金を納める期間の延長は見送る方向となりましたが、年金については、様々な課題を抱えています。今回は、年金制度が抱える課題と将来像について考えていきます。
「国民年金」について、将来の見通しは改善したとは言え、非常に気になる点があります。
「基礎年金」とも呼ばれますが、今回の検証では、将来の給付水準が、「厚生年金」よりも大きく低下していく見通しが示されました。
これは、「厚生年金」が、女性や高齢者たちの就業機会が進んで加入者が増え、財政が改善したのに対し、「国民年金」は、デフレの影響などで厳しい財政に陥っているからです。
仮に、過去30年と同じ程度の経済状況が続いた場合、年金の給付水準を引き下げる国の政策は、「厚生年金」が再来年度に終わり、その後は水準が保たれるのに対し、「国民年金」は57年度まで引き下げが続きます。
日本には、この「国民年金」だけに加入している人が大勢います。自営業や非正規労働者など、1号被保険者と呼ばれる人は約1400万人に上ります。
年金の支給額は、今の水準でも満額で月に約6万8000円と「それだけでは生活できない」という声が聞かれます。
この「国民年金」の「水準の低さ」こそが、国が取り組まなければならない最も大きい課題であると言えるのではないでしょうか。
では、どのような対策が必要なのでしょうか。まず、「厚生年金」の適用拡大が挙げられると思います。
「厚生年金」に入れば、受け取れる年金額は上がります。加入者を増やし、低年金の人を減らす政策が求められます。
1つの焦点は、短時間勤務の人です。
「厚生年金」は、元々フルタイムの会社員が中心でしたが、政府はここ数年、週に20時間以上、30時間未満で働く人も加入できる制度改正を進めてきましたが、まだ課題も残っています。
例えば、「企業規模の要件」です。現在は、従業員が100人以下の小規模な会社に勤めている短時間勤務の人は「厚生年金」に加入できません。
社員の保険料の半分を負担する企業に配慮した制度ですが、厚生労働省の有識者懇談会は、「この要件を撤廃すべき」という提言をまとめています。
企業への支援策も必要で、検討しなければなりませんが、職場の規模によって左右される今の制度は、見直しを進めていくべきだと感じます。
また、短時間勤務の労働者は、複数の会社を掛け持ちして働く場合があります。
今は、どこか1つで20時間を超えていないと厚生年金に加入できません。1つ1つの会社の労働時間が短い場合、例え合計して20時間を超えても、厚生年金に入ることはできません。
勤め先が複数にまたがると、会社側が労働時間を把握するのが難しいという課題もありますが、副業が広がり仕事を掛け持ちする人は益々増えていくと見られます。
複数の会社を合算して、「厚生年金」を適用していく仕組みへの制度変更も必要です。
増加しているフリーランスで働く人たちについても早急な議論が必要です。
イラストレーターや配達員など様々な職種に広がり、フリーランスを本業にする人は200万人を超えています。
しかし、会社に雇用されていないことから、一般的には「厚生年金」の対象に含まれず、「国民年金」のみとなっています。
フリーランスを対象にした調査では、働き方の違いに関わらない中立な社会保障制度を求める人が95%を超えています。
それだけ、将来に不安を感じている人が多くいるとも言えます。
フリーランスの中でも、会社から指揮命令を受けるなど、雇用されているのと変わらない働き方をしている人は、確実に「厚生年金」に加入できるようにしなければなりません。
また、それ以外の人についても、「厚生年金」の適用を拡大するのか、ほかの方法で年金の拡充を図るのか、国は制度の見直しも含めて議論を続けてもらいたいと思います。
1つの会社に長く雇われるのが当たり前という時代から、働き方は大きく変わってきています。その変化に対応し、取り残される人が出ない年金制度の見直しが求められます。
「国民年金」自体の底上げも考えなければなりません。
今回、将来見通しが改善する中で、国は、「国民年金」の保険料を支払う期間について、いまの40年を45年に延長する案を見送ることとなりました。
代わりに「国民年金」の水準を下げていく仕組みを早く終わらせる案も検討されていますが、その場合は国の負担が増えます。こうした点を含め底上げの議論を続けるべきと考えます。
また、今回の試算では、出生率が今より改善することなどが前提となっています。仮に想定通りにいかない場合に備えた年金の将来像も考える必要があると思います。そのために少子化対策などで少しでも人口減少を食い止めることが不可欠です。
さらに、年金を支えるためにも日本経済が持続的に成長する施策の実行も極めて重要な課題となります。以 上
筆者 平木雅己(ひらきまさみ)選挙アナリスト
元NHK社会部記者。選挙報道事務局を長く勤め情勢分析や出口調査導入に尽力。小選挙区制度が導入された初めての衆議院議員選挙報道ではNHK会長賞を受賞。ゼネ
コン汚職事件、政治資金の不正など政治家が関わる多くの事件・疑惑も取材。
その後、連合(日本労働組合総連合会)事務局にて会長秘書(笹森清氏)として選挙
戦略の企画立案・候補者指導を担当、多くの議員の当選に尽力した。
政策担当秘書資格取得後、法務大臣/自民党幹事長代理はじめ外務大臣政務官、衆参国会議員政策秘書として、外交・安全保障、都市計画、防災、司法、治安、雇用・消費者、地方自治などの委員会や本会議質問を作成、政策立案に携わる。
☆参考資料はこちら☆
240722出稿資料1