公的年金の「財政検証」を「検証する」(上)
- 2024.7.22
- 経済
公的年金の財政状況をチェックし、将来の給付水準の見通しを示す「財政検証」の結果が今月(7月)3日公表されました。
今回公表された「財政検証」によりますと、過去30年間と同じ程度の経済状況が続いた場合、給付は目減りするものの現役世代の平均収入の50%以上は維持できるとしています。
厚生労働省は、前回5年前の「財政検証」より見通しが改善したとして、国民年金保険料の納付期間の45年への延長は見送ることとなりました。今回公表された公的年金の「財政状況」について検証を行います。
「財政検証」は、国民年金や厚生年金がこの先100年にわたって維持できるか、財政状況を5年に1度、チェックするもので年金の「定期健康診断」とも言われます。
検証では、経済の成長や人口の見通しなどを仮定して、財政収支や給付水準が試算されます。
今回の検証では、経済前提について、長期の実質経済成長率がプラス1.6%からマイナス0.7%までの4つのケースを想定し、それぞれ試算が行われました。
また、人口の仮定は、2070年時点の合計特殊出生率を1.36、平均寿命を男性が85.9歳、女性が91.9歳、それに外国人の人口は、2040年まで毎年16万4000人の入国超過となることを標準としています。
外国人の人口については、2070年に全体の1割を超えるという国の研究所の推計を踏まえ、年金財政への影響も大きくなると予想されることから今回初めて、増加の程度が加味されました。
さらに、40年間平均的な賃金で働き厚生年金に加入してきた夫と、専業主婦の妻の夫婦2人の世帯が受け取る、いわゆる「モデル年金」は、働く女性の増加など実態を反映していないという指摘があることを受けて、今回から、世代ごとの働き方を踏まえた男女それぞれの平均年金額などもあわせて示されました。
改めて、日本の年金制度について整理します。
20歳以上の人が加入する「国民年金」、会社員や公務員などが入る「厚生年金」、そして、それぞれが独自に作る「企業年金・個人年金」などの3つ、いわゆる「3階建て」と呼ばれている仕組みとなっています。
このうち、「国民年金と厚生年金が公的年金」と呼ばれ、厚生労働省は5年に一度、年金の財政状況をチェックし、将来の見通しを試算しています。
また、現在の年金制度は、将来に備えて、給付水準を物価や賃金の上昇率よりも低く抑える「マクロ経済スライド」が導入されています。
これは、少子高齢化で支える人が減る一方で年金を受け取る人が増えることが見込まれるためです。
一方、夫が厚生年金に加入し、妻が専業主婦の世帯の場合、現役世代の平均収入を100%として、夫婦が受け取る年金額の割合が現役世代の男性の平均収入に対して50%を下回らないように法律で約束しています。
今年度は、「平均収入が37万円で、受け取る年金は22万6000円、比率は61.2%」となっています。この水準が将来どこまで下がるのかが今回の焦点となりました。
厚生労働省は、今月(7月)3日に開かれた社会保障審議会年金部会において、今回の試算を公表しました。
それによりますと、今回の検証は、長期の実質経済成長率が、「プラス1.6%からマイナス0.7%まで」の4つのケースを想定して行われました。
それぞれ、「マクロ経済スライド」による給付の抑制がいつまで続き、どの程度、水準が低下するのか、試算が行われました。
経済成長や就業機会の拡大が順調に進むとしたケースでは、いずれも給付の抑制は、2030年代の後半まで続き、所得代替率は57%前後となります。
今年度の所得代替率、61.2%と比べると、4ポイント程度の低下にとどまる計算です。
また、経済成長率がマイナス0.1%と、過去30年間と同じ程度の経済状況が続くケースでは、給付の抑制は2057年度まで続き、所得代替率は50.4%と、今より10ポイント程度低下するものの、50%以上は維持できるとしています。
一方で、経済状況が悪化し、成長率がマイナス0.7%に落ち込むケースでは、2059年度に国民年金の積立金がなくなり、その後、所得代替率は30%台に落ち込むとしています。
より具体的に見ていきましょう。
「経済成長が安定的に続き、長期の実質の経済成長率が1.1%」と予測した場合に2037年度で57.6%、24万円になります。
「過去30年間と同じ程度の経済状況が続き、成長率がマイナス0.1%」の場合、2057年度で50.4%、21万1000円となりました。
「経済状況が悪化し、成長率がマイナス0.7%に落ち込む」ケースでは2059年度に年金の積立金は無くなり、その後、比率が30%台に落ち込むとしています。
厚生労働省は、今回の検証結果について、女性や高齢者の労働参加が進んだことや外国人の増加で、少子高齢化の影響が緩和されたことに加え、株価の上昇を背景に積立金が増えたことなどから、前回5年前の検証結果より将来の見通しが改善されたとしています。
厚生労働省は、結果を踏まえて、制度改正の議論を本格化することにしていますが、国民年金保険料の納付期間を今の40年から45年に延長する案については、検証結果が改善されたことも踏まえて見送る方向となりました。以 上
筆者 平木雅己(ひらきまさみ)選挙アナリスト
元NHK社会部記者。選挙報道事務局を長く勤め情勢分析や出口調査導入に尽力。小選挙区制度が導入された初めての衆議院議員選挙報道ではNHK会長賞を受賞。ゼネ
コン汚職事件、政治資金の不正など政治家が関わる多くの事件・疑惑も取材。
その後、連合(日本労働組合総連合会)事務局にて会長秘書(笹森清氏)として選挙
戦略の企画立案・候補者指導を担当、多くの議員の当選に尽力した。
政策担当秘書資格取得後、法務大臣/自民党幹事長代理はじめ外務大臣政務官、衆参国会議員政策秘書として、外交・安全保障、都市計画、防災、司法、治安、雇用・消費者、地方自治などの委員会や本会議質問を作成、政策立案に携わる。
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240720出稿 資料