フランス国民議会選挙 各勢力とも議会の過半数を得ることできず!五輪を控え、連立への協議が続く
- 2024.7.11
- 国内・政治
フランスでは、6月30日・7月7日に国民議会選挙が行われましたが、どの勢力も議会での過半数を獲得することができませんでした。政策面での隔たりも大きいことから連立に向けた話し合いも難航しています。マクロン大統領がどのような人物を首相に任命するのか、大きな関心を呼んでいます。きょうはフランスの国民議会について取り上げます。
フランスの議会・選挙制度とは
フランスの国会は、「元老院」(上院)と「国民議会」(下院)から成る二院制ですが、「元老院」の議員は直接選挙ではなく、各自治体に割り振られた選挙人たちによる間接選挙によって選ばれるので、有権者が投票するのは「国民議会」選挙となります。
「国民議会」の総定数は577人で、フランス本土から539人、海外県・海外領土から27人、在外フランス人から11人が選出されます。2008年の国会制度改革案の成立により、在外フランス人向けの議席が設けられることになりました。
選挙制度は1選挙区区1人選出の小選挙区制で、有効得票の50%超(2分の1)かつ登録有権者の25%以上(4分の1)の得票を得た候補がいない場合、登録有権者の12.5%(全体の8分の1)以上の得票を得た候補による決選投票を行います。いわゆる2回投票制が導入されているため、今回の選挙は6月30日と7月7日に行われました。
選挙結果は
6月30日に行われた第1回投票では、与党連合と国民連合、それに左派連合「新人民戦線」の三つどもえの争いとなっていて、世論調査に基づく議席予想では、国民連合と、連携する候補が今より3倍近く議席を増やして最大勢力になる可能性が指摘されていましたが、577の選挙区の内、当選者が決まったのは76選挙区で、有効投票の過半数を取る候補者がいなかった501選挙区では、7月7日に決選投票が行われました。
その結果、内務省の発表をもとに地元の公共メディア「フランスアンフォ」が伝えたところによりますと、
左派の連合の新人民戦線が180議席を獲得して最大勢力になりました。
次いで、マクロン大統領率いる中道の与党連合は選挙前に比べて議席を大幅に減らして163議席、
極右政党の国民連合は143議席で、第3の勢力にとどまりました。
選挙に至った背景
今回、マクロン大統領が国民議会を解散し選挙に至った背景は、6月6~9日に行われた欧州連合(EU)加盟国で欧州議会選挙において、フランスでは、ルペン氏の極右政党・国民連合(RN)が31.5%で最多票を獲得し、フランス選出欧州議会議員の最大勢力となり、マクロン大統領のリベラル会派・再生(ルネッサンス)の得票率は14.5%にとどまり、極右政党に大差を付けられたためです。
議会解散の演説でマクロン大統領は「扇動者によるナショナリズムの台頭はフランス、ヨーロッパ、そして世界におけるフランスの地位に対する脅威である。極右をフランス国民の貧困化と我が国の没落」と非難していました。
選挙の結果、議会の最大勢力となる左派の連合も過半数の議席は獲得しておらず、左派の連合の一角を占める急進左派の政党と与党連合は政策面での隔たりが大きいことから、地元メディアは連立を組むのは容易ではないとの見方を伝えていて、マクロン大統領がどのような人物を首相に任命するのか、大きな関心を呼んでいます。
フランス第5共和制
国民から直接選ばれた大統領が国家元首として主に外交や安全保障を担い、大統領が任命する首相が内閣を組織して主に内政を担います。
憲法上、大統領はいかなる人物も首相に任命できますが、議会の信任を得るため、通常は議会の多数派を率いる人物を任命します。
過去には選挙の結果、大統領と議会の多数派が別々の党派となり、大統領がみずからと異なる党派の首相を任命する「コアビタシオン(保革共存)」と呼ばれる体制となった時期もありました。
今回、議会の最大勢力となった左派連合は、決選投票を前に極右を阻止するために与党連合と選挙協力を行いましたが、政策面では対立しています。
このため両者が連立を組むのは容易ではないとみられ、マクロン大統領が今後誰を首相に任命するのかも不透明な状況です。
専門家や現地メディアの分析
フランス国民議会の決選投票で事前の予測に反して左派の連合が極右政党を抑え最大勢力になった背景には大きく2つの要因があると専門家や現地メディアは見ています。
1つは、かつて人種差別や移民排斥を公然と掲げていた極右政党の流れを引く国民連合に対して、国民の間に根強い警戒感があるとしたうえで「1回目の投票の結果を受け、反国民連合の有権者がこのままでは国民連合の政権が誕生し、フランスという国が変わってしまうという強い危機感をもって投票に行くようになった」のではないか。
2つ目の要因として「1回目の投票の後、与党連合と左派の連合がふだんの対立を乗り越え、候補者の調整を進めた。有権者もこうした調整を理解したうえで投票した」と分析しています。
しかし、今後の議会運営についても、多数派の形成が困難な中で左派や右派にも受け入れられる法案を作る必要に迫られるとして「国民にとっては非常にわかりにくい不透明な政策になり、不満が残る形になる可能性がある」と指摘しています。
以 上
筆者 平木雅己(ひらきまさみ)選挙アナリスト
元NHK社会部記者。選挙報道事務局を長く勤め情勢分析や出口調査導入に尽力。小選挙区制度が導入された初めての衆議院議員選挙報道ではNHK会長賞を受賞。ゼネコン汚職事件、政治資金の不正など政治家が関わる多くの事件・疑惑も取材。
その後、連合(日本労働組合総連合会)事務局にて会長秘書(笹森清氏)として選挙戦略の企画立案・候補者指導を担当、多くの議員の当選に尽力した。
政策担当秘書資格取得後、法務大臣/自民党幹事長代理はじめ外務大臣政務官、衆参国会議員政策秘書として、外交・安全保障、都市計画、防災、司法、治安、雇用・消費者、地方自治などの委員会や本会議質問を作成、政策立案に携わる。