【弁護士ログニュース=6月24日】ツイッターの逮捕歴に関する投稿を、最高裁が削除を命じる初の判決
- 2022.6.24
- 弁護士情報
今回の裁判で補足意見を書いた草野耕一最高裁裁判官/最高裁判所のHPより
ツイッターで過去に投稿された自身の逮捕歴が、閲覧できる状態にあることから、原告の男性がツイッター社に削除を求めた裁判で、最高裁判所は、「逮捕から時間がたっていて公益性は小さくなっている」などとして、プライバシー保護を優先して、削除を命じる判決を言い渡した。
2012年に建造物侵入の疑いで逮捕された男性は、略式命令を受け罰金10万円を納付しましたが、その後もツイッターで名前や容疑がわかる逮捕時の報道を引用したツイートが閲覧できる状態になっているとして、就職活動に支障が出ているなどとして、削除を求めていた。
1審のさいたま地裁は削除を認めた一方、2審の東京高等裁判所は削除を認めず、男性が上告していた。
24日の判決では、最高裁第2小法廷の草野耕一裁判長は、「逮捕から時間がたっていて、すでに刑の効力はなく、ツイートに引用された報道もすでに削除されていて公益性は小さくなっている」「投稿はいずれも逮捕の事実を速報することを目的としていたとみられ、長期間にわたり閲覧されることを想定していたとは認めがたく、男性は公益的な立場でもない」として、今回の投稿についてはプライバシーの保護が社会に情報を提供し続ける必要性を上回ると判断し、2審判決を破棄、投稿を削除するように命じた。
今回は、4人の裁判官全員の判断であり、逮捕歴に関してツイッターの投稿の削除をめぐって最高裁が判決を言い渡したのは初めてである。
原告上告人の代理人の田中一哉弁護士は、「主張が完全に認められたと考えています。男性を長い間待たせてしまったが、裁判が終わってよかったですしホッとしました」「デジタルタトゥーで悩む人の救済にも役立つと思います」とコメントしている。
裁判では、検索サイトをめぐる決定で最高裁が示した基準がツイッターにも当てはまるかどうかが争われ、男性側は「ツイッターはインターネット上のサイトの1つで、情報流通の基盤としての役割はない」として検索サイトとは異なると主張し、「罰金を納めてから何年も経過しているのに過去の投稿が表示され、就職活動が妨げられるなど深刻な影響を受けている。投稿当時は公益性があったが今はなくなっている」として、削除を認めるべきだと訴えました。
一方で会社側は、「ツイッターは情報流通の基盤として公共的な役割を果たしている。削除を認めれば投稿した人の表現の自由や、閲覧する人の知る権利が制約される」と主張し、検索サイトと同様に削除は慎重に望むべきだと主張し、「男性の逮捕に関する投稿は社会的に関心が高い内容で、公益目的がある」として削除すべきでないと反論していた。
1審のさいたま地裁は、「ツイッターは検索サイトほど必要不可欠な情報流通の基盤とは言えない」とした上で、逮捕から時間が経ち、投稿の公益性は減少しているとして、プライバシーの保護が優先されると判断したが、2審の東京高等裁判所は、「ツイッターはアクセスが多く、各界の著名人も情報発信を行うなど情報流通の基盤として大きな役割を果たしている。削除は検索サイトと同様にプライバシーの保護が明らかに優先される場合に限られる」と指摘し、「犯罪自体は軽微なものではなく投稿には公益性がある」として削除を認めなかった。
今回の判決は、2017年に最高裁が検索サイトの決定で示した考え方を基にして、時間の経過とツイッターの特性に注目して、削除を認める判断をした。対象となった14件の投稿について、「他人にみだりに知られたくないプライバシーに関わるものである一方、軽微とは言えない犯罪に関するもので、ツイートされた時点では公益性があった」と指摘した上で、時間の経過を踏まえ、逮捕から2審が終わるまでにおよそ8年が経過し、刑の効力も失われていること、ツイートに引用された報道そのものも削除されていることを踏まえ、「公益性は小さくなっている」と判断した。
またツイッターの特性を捉えて「投稿はいずれも逮捕当日に140字の制限の中で報道を転載して伝えていて、速報が目的だとみられ、長期間、閲覧され続けるとは想定されていなかった」と指摘。それにもかかわらず、今も男性の名前で検索すると投稿が表示されることから、今回はプライバシーの保護が優先されると判断した。また2審判決が、ツイッターの投稿について、検索サイトと同様に厳格に考えるべきだとして削除を認めなかったことについては、「ツイッターが提供しているサービスの内容や利用実態を考慮しても、そのようには判断できない」と否定した。
草野耕一裁判長は、補足意見の中で、「今回のツイートが男性のプライバシーを侵害していることは明らかで、削除によって生活の平穏を取り戻すことは法的保護に値する重大な利益だといえる。家族や知人がツイートを見るかもしれないと危惧し続け平穏な暮らしを妨げられる不利益が、ツイッターの検索機能がグーグルなどに比べて弱いという理由で減少するとは考えづらい」と記載している。