【弁護士ログニュース=3月6日】江尻隆弁護士が元部下の美人弁護士から婚約不履行で訴えられている事件、原告女性側から第4回準備書面が提出される
- 2015.3.6
- 弁護士情報

元部下の女性弁護士から損害賠償請求を受けている江尻隆弁護士
江尻隆弁護士が、元部下だった美人弁護士から婚約不履行で訴えられている事件で、原告女性側から第4回準備書面が提出されましたので、全文を掲載します。
平成26年(ワ)第9289号 婚約不履行に基づく慰謝料等請求事件
原告 森順子
被告 江尻隆
準備書面(4)
2015年3月6日
東京地方裁判所民事第30部ろA係 御中
原告代理人 弁護士秋田一恵
第1 被告準備書面(2)の主張に関する認否
1 第1について
(1)1について
①全部否認する。
②被告は原告の主張事実について、不法行為と債務不履行の双方に該当することを認めながら、その要件事実に該当する行為が特定されておらず、法的構成ごとに峻別すべきとしているが、双方の法律構成に該当するのは一つの事実である。あえて要約すれば、「被告が原告に対して結婚の約束をしながら(あるいは結婚の意思があるような欺罔行為によって)、これを履行せず(あるいは騙しつづけたまま)原告に不倫関係を強要した」その上で不倫関係の継続中も婚姻を履行するかのように原告を欺き、原告に多大な心身共に搾取をしてきて、結局、婚姻の履行をしなかったという事実である。被告の行なった欺罔行為は一貫しており、債務不履行に該当する事実と不法行為に該当する事実が別々に存在するなどという議論こそ荒唐無稽である。一つの行為が債務不履行ともなり、不法行為ともなる。
(2)2について
否認する。
そもそも、原告の主張は被告の債務不履行と予備的主張としての不法行為であって、これに該当する要件事実は主張済みであり、それぞれの行為によって生じた損害についても主張済みである。
(3)3について
否認する。
被告は、個々の要件事実に関する議論をすることなく、原告の主張はすべて根拠を欠き、主張自体を失当とするが、原告は事実を明らかにし、これに伴う法的根拠をこれまで主張してきたのであるから、何を根拠に主張自体を失当と断定するのか意味不明である。
2 第2について
(1)1について
(イ)(2)アの(ア)について全部否認する。
被告は自らの婚姻関係が破綻しているとして、原告に対し男女関係を伴う交際を申し入れ、強要したのである。これは結婚の約束の申し入れであると同時に、(当初から被告に原告との結婚の意思などないとすれば)原告に対する欺罔行為による不倫関係の強要であると主張しているのである。一般に、一つの事実が契約関係を構成し、契約関係の成立が認められないのであれば不法行為を構成するという論理が、被告には理解できていないようである。
(ロ)(2)アの(イ)について、全部否認する。
被告の主張は、意味不明である。第二段の「しかし」以降で被告が述べていることは、結婚前提での交際申込みは結婚の申し込みではないという当たり前のことを述べているにすぎないし、原告が訴状の第2において述べている事実を見過ごしているのか。理解できない。
結婚を目的としない「不貞関係の申し込み」というのを被告もしているとは言っていない。
(ハ)(2)ウについて全部否認する
①原告準備書面(2)の第3(4頁)の主張は、事項の起算点を述べているのであって、債務不履行の発生時期を述べているのではないことは明らかである。1992年に成立した婚約の合意は、当然のことながら、被告が自発的に離婚することが前提条件であり、被告は原告に対しては(原告の存在とは関係なく)前提条件を性成就して原告に対する婚約を履行(すなわち結婚)する義務を負っていたのである。被告の主張する通り、当初から被告には原告との結婚の意思がなかったとすれば、履行は不可能であり、被告は当初から債務不履行でもあり、故意の欺罔で不法行為となるのである。原告は20年以上も経ってから突然破棄したとは主張しておらず、このような事実も存在しないのであり、被告の主張こそ意味不明である。
②乙14号についても、体裁を云々するのであれば、これは書簡であってファクスではないし、そこに送付の携帯メールの文章は、被告が20年以上も原告に不倫関係を強要した挙句に誠意のないやり方(連絡しても無視)をしているのを嘆いているのであって、これが何と矛盾するのか、意味不明である。求釈明する。
(2)2について
(イ)(2)アについて、全部否認する。
①原告が主張しているのは、被告が「結婚」の約束を餌に原告に多額の費用を負担させ、被告に不倫行為を強要したことが一連の債務不履行又は不法行為に該当するということである。この債務不履行又は欺罔行為によって原告が被った金銭的・精神的損害は訴状、原告準備書面(2)第2の13の2)において詳細を主張している。被告は、このような詳細な説明だと理解できないようなので、敢えて要約するが、結婚の約束をして、これを前提に結婚後の住居のため二世帯住宅の購入に同意して原告に当該住宅を購入させたのに、結果として約束を反故にすることにより(あるいは当初から「結婚の意思もないのに永年の欺罔行為によって)原告に不必要な買い物をさせ、原告に不必要な費用を負担させたということである。この論点で要件事実となるのは、原告と被告の婚約の合意(又は被告の欺罔行為)と、(婚約の合意の履行後の両名の生活基盤の準備としての)二世帯住宅の購入、この購入にあたっての被告の事前の合意、この合意に基づく原告の出費の事実であり、これらの事実は全て主張済みである。
②アの後段において「原告が、その債務の履行を請求するでもなくその『不履行』によって損害を被ったとする主張は意味不明である。」という点についても、履行の請求を債務不履行の要件とするものであって、理解しがたい。債務不履行というのは、契約の合意(債務負担の合意)があって、それが履行されなければ、履行請求の有無に関係なく成立するものである。
③不法行為の天については、被告の理解を助けるために要約すれば、結婚の意思があるかのような欺罔行為により、本来原告が準備する必要のない二世帯住宅を購入することに同意し、当初より結婚する意思がないのに欺罔行為を行ったことにより、原告に無駄な出費をさせたという主張である。なお、登記については、原告の自宅の登記につき、被告が一銭も拠出していないのに共有名義にしたら、それこそ税務上大問題である。
(ロ)(2)イについても全部否認する。
これも被告の理解力の問題のようであるが、噛み砕いて言えば、原告は被告に対し婚約の履行を求めて訴訟を提起しているのではない。被告が原告との結婚の意思がないにも拘らず、自らの欲求を満たすために原告を欺罔し、これによって金銭的・精神的損害を被らせたと主張しているのである。何が公序良俗違反なのか不明である。なお、不法原因給付、消滅時効又は除斥期間の主張に対する反論は、後記第2の6において詳細に述べる。
(3)3について
(イ)(2)アについて全部否認する。
①これについても、被告のためにかみ砕いて説明すれば、被告が結婚の約束により(あるいは約束したかのように欺罔して)、原告が被告の同意を得て結婚後の住居の準備としてマンションを借りるに至ったのに、原告に全額その家賃を負担させていたという主張である。この要件については、原告は訴状第2の4の5)(9頁)、14の1)および2)(19頁・20頁)において主張している。
②また、繰り返しになるがマンションの賃料その他の費用の履行請求について付言すると、原告にはマンションを借りなければならない理由は全く無いにも拘らず、原告が全額負担し続けていることについて、被告に対し何度か不満を述べた。しかし、被告は「今は、収入と支出について、妻と秘書に詳細を握られているので、申し訳ないけど支払えない、いずれ結婚したら精算する」ち言って原告を騙し、長年にわたって事実をごまかし続けたのである。
③被告は原告が自らの判断でマンションを賃借して賃料、光熱費を自らの判断で支払ったと主張するが、原告には自宅があったのだし、独身であったのだからマンションなど借りる理由は全くなかった。賃料などの支払の前提としてマンションを賃借することについての被告の合意があったのだから、賃借人名義を原告とされてしまった以上、支払うのは当然の結果であり、支払の都度被告の了解がなければ要件事実の主張がないというのは理解しがたい主張である。
不法原因給付、消滅時効、除斥期間、和解の抗弁については後記第2の6において反論を述べる。
(ロ)(2)イについて全部否認する。
①被告は度々原告と被告の結婚の約束が公序良俗違反であり法的保護に値しないと主張を繰り返すが、原告が主張しているのは、「被告がすぐにでも妻と離婚するかのように原告を欺罔して、原告をその意図しない不倫関係に巻き込み、精神的・金銭的損害を被らせた」ということであり、不倫関係の維持を約束してマンションを賃借したと主張しているのではない。
②マンションは原告にとって全く不必要だったので、被告が後に支払うと約束しているように賃料全部を要求している。
(4)4について
(イ)(2)アの労働契約について、全部否認する。
パートナーといっても、事実上は給料を全額支払ってもらう労働者の立場である。パートナー=労働者ではない。労働者である。
(ロ)(2)アの第一段落の「さらに、」以降について
①被告が原告の不祥事を繰り返し主張して、原告の信用を貶め用としているが、事実無根であることは明らかである。そもそも、被告は、原告が日興證券のトラブルの責任の一切を負わされたことで、「パートナー会議ですべての事情を話して事務所を辞める」と言ったことから、被告は慌てて原告の不祥事をねつ造したのである。具体的には旧あさひ法律事務所のアソシエートSを利用して、東京地裁民事20部に原告の担当する破産事件の記録謄写請求を行わせ、これによって取得したコピーを利用して原告の書類偽造をねつ造したものと推測されるが(原告が偽装したとされる書面を原告は見ていないので事実は確認していない)、この時点で管財人である原告は事務所を辞めようと思っていたこともあって、既にアソシエートSを常置代理人(当時)から解任していたのである。その結果、常置代理人ではなくなったSから20部に対し大量の謄写請求がでたことを書記官が不審に思い、原告に連絡をしてくれたのである。
②被告は原告が売り上げを誤魔化したり、事務所の金銭を横領したと主張するが、これも全く根拠のない事実である。後記第2の4に詳述するが、被告は原告が「全てを話して事務所を辞める」と言ったのをおそらく自分との不倫行為をばらされると焦ったのであろう。そこで先手を打つため、原告に対し「自分(被告)が森さんの立場は守るから、森さんは事務所内ではこの件について黙っているように」と説得し、他方事務所内では原告の不祥事をでっち上げ、挙句の果てには横領とまで言って、原告の名誉を棄損し、仮に原告が自分との交際の事実を暴露しても、説得力がないように事前に手を打ったのである。但し、原告は、その当時は被告が日興證券とのトラブルの全原因が原告にあった(原告がミスをした)と事務所内で説明していたことも知らなかったし、ましてや原告が横領したなどと言われていたことも知らなかった。
③原告準備書面(1)第1の13において述べたとおり、原告は退職にあたって鳥海弁護士、三好弁護士と原告の個人事件の報酬精算について協議し、その結果合意した金額を旧あさひ法律事務所へ支払っている。被告の主張する不祥事、横領が事実であるとすれば、これら担当パートナーと協議するまでもなく、全額没収されるはずであるが、そのような事実は無い。逆に、報酬精算について合意をしたにも拘わらず、あとになって不祥事、横領とこじつけるのは根拠なくして原告の名誉を傷つけるものである。不法行為以外の何ものでもない。原告は事務所退職の当時、被告がこのような不祥事、横領ということを事務所内で広めていたとは夢にも思っておらず、被告の指示通りことを進めていれば被告に守ってもらえると信じていたのである。
④このように、被告の主張する不祥事は、すべて原告の知らないところで被告により事務所内で広められていたことであって、真実でないのは明らかである。また、被告は既に閲覧謄写請求の件で裁判所に多大な迷惑をかけ、当時のアソシエートSを個人的な件でトラブルに巻き込んだ(Sが進んでしたことではないと原告は信じたい)のであるから、これ以上第三者を巻き込んで原告の名誉を傷つけようとするのは自粛すべきである。
(ハ)(2)アの第二段落について、最終文の保険金が原告・被告各1000万円支払われた事実は認め、その余は全部否認する。
①日興證券とのトラブルの責任の所在については、第2の5において詳述するが、「第三者」と記載されている日興證券からの責任追及を受けたのは、発行会社A社から依頼を受けた被告であって、日興証券にとって原告など相手にするに足らない存在であったのは明らかである。
②被告は、ここでの主張と同じ主張を準備書面(1)第1(10)において既に述べているので、原告も既に準備書面(1)の12において既に反論しているが、被告が再度同じ主張を繰り返すため、原告も後記第2の5において更なる反論を述べることとする。ここでは、原告の認否を以下の通り補足する。
被告が再三にわたり原告自身の「ミス」と断定するからには、確たる事実の主張とこれを裏付ける証拠を提出すべきであるが、被告の主張は、原告が被告の指示のもと作成したメール(乙10と乙11)のみを根拠とするものである。そもそも、原告は、この件についてすべての責任は原告にあるとして事を進めるよう被告から指示されていたので、対外的には意図的に被告に有利になるような文章を作成していたし、被告も被告に責任が及ばないよう一々書面を事前にチェックしていたのである。
③乙10についても、乙11についても、これらは原告と被告間のメールであって対外的なものではなく、かつ原告には記憶にない文書である。このような内容のメールは乙10については被告の事務所のサーバー経由で送信されたものであり、原告でなくとも誰でも作成できた可能性がある。また、乙11については、原告は当時長島・大野・常松法律事務所に所属しており、ドメインも同事務所のものと、「asahinet」を使っていたが、乙11の送信者の表記は「msn」のドメインであって、原告が送信したものかどうか、疑わしい。いずれのメールも成立が疑わしい。乙11については原告が被告に迷惑をかけまいとしていることが(被告に対する愛情いっぱいに)涙ぐましく書かれているだけで、原告の紛争における責任論を議論したものではない。仮に乙11が真正なものであるとすれば、被告は原告が被告を愛するがゆえに被告に責任をかぶせまいと綿々と書いた文章をあとで証拠として利用するものであり、悲しいほど卑怯な行為である。人間として、恥ずかしくないのかと問いたい。
④被告が原告の「ミス」と断言するのであれば、後述するとおり、原告が作成したA社の発行決議の議事録の英訳に誤りはなく、日興スイスの弁護士がこの英訳を確認のうえスイスでの発行手続きを進めたことを踏まえ、それでも原告のミスであるという根拠を具体的に示すべきである。
⑤更に被告は「和解金の一部を負担してこの件を解決し原告の負担を軽減した」とするが、仮に原告・被告側に責任があるとすれば、被告自身が日興證券の紹介を受けて受任し、対外的にも主任の代表者であり、報酬も原告の数倍は受領していたことは無視できない事実である。更に、原告は発行手続きを進めるにあたり、相手方とやり取りする書面は、事務所内のルールに従い全て監督者である被告に回付していたのであり、この回付された書面を一切見ていないとすれば、それ自体被告の責任である。自らの判断で回付された書面をよく見ずに、かつ、原告が案件について相談を持ちかけても「忙しいからお任せします」として主任としての職務を全うしなかった事を棚に上げ、良くわからない「原告の責任を認めるメール」を盾にとって全部原告のミスと決めつけるのは余りに身勝手な行為である。このような被告の主張がまかり通るのであれば、被告の下で働く弁護士は、問題が起きればいつ被告から責任を負わされるかわからないことになってしまうこととなり、被告の主張が不合理かつ不当であることは明らかである。
(二)(2)イについて全部否認する。
消滅時効、除斥期間、和解の抗弁については後記において反論を述べる。
(5)5について
(イ)(2)アについて全部否認する。
①第二段落の退職時の会議議事録について、被告は再度原告の報酬の「開示漏れ」があった「不祥事」(公文書偽造/横領等刑事告発もの)とも評される行為)と執拗に原告の名誉を傷つける主張を繰り返すが、そこまで不祥事があったのなら、事務所と原告は報酬分配の協議をしたはずはないし、当時、原告に対し、文書偽造とか、横領とかを指摘したパートナーが一人もいなかったのは不可思議である。
②乙20号の1と2については、原告はパートナー会議の存在すら知らされていなかったにもかかわらず、「JKM(原告のこと)」が欠席欄に騎士漁れていることからも、被告が意図的に原告から事実を明らかにする機会を奪い、一方的にパートナー全員を味方につけて糾弾した事は明らかである。原告が日興證券のトラブルの全責任を被ることを指示され、事務所を辞める決意をしてからは、原告は全て被告の指示通りに事を進めていったにもかかわらず、被告自らは原告の知らないところでこのような誹謗中傷を広めていたとは、原告は乙20号の1と2を見るまで全く知らなかったのであり、原告には耐え難いショックである。
(ロ)(2)イについて全部否認する。
消滅時効又は除斥期間、和解契約による消滅の点については後記第2の6において詳細を述べる。
(6)6について
(2)のアとイについて全部否認する。
アについては、被告の「独立した請求であると主張するようである」は、原告の主張を捻じ曲げて解釈するものである。被告の解釈のように、一連の不法行為による損害につき、損害の種類が異なる毎に訴訟物が異なるという考え方は、これまで見たことのない訴訟法に関する新しい考え方であるが、理解に苦しむ。
(7)7について
(2)のアとイについて全部否認する。
被告は前記と同じく原告の主張を勝手に独立した請求としているが、原告の訴状・準備書面を見てもどうしてそのような解釈となるのか、意味不明である。
(8)について
(2)のアとイについて全部否認する。
なお被告は、項番7から9まで、殆どコピーしてペーストしたような内容を記載しているが、どこまで真面目に検討しているのか、疑問を禁じ得ない。
(9)9について
(2)のアとイについて全部否認する。
3 第3について
(1)1について全部否認する。
①被告の事務所がパートナー会議で原告の入所を決議したかどうかは、不知。被告が勝手に原告の入所をパートナー会議にかけただけであって、原告に伝えられなくては意味はない。
②後述のように、原告が得意とする外債発行は極めて狭い世界であり、一度転職してしまえば、あとは簡単に事務所を変えることはできない(変えようとしても採用してくれる事務所は無い)という状況であったため、原告は複数の事務所を訪問して提示された条件をみて最終決定するつもりであった。確かに、桝田・江尻法律事務所への入所の希望は話したが、留学直前の段階で一年以上も先のことを最終決定する必要もなく、事実、他の事務所からもオファーがあったので、比較検討していたのである。問題は、旧あさひがいつの時点で原告の採用を決議したではなく、被告準備書面(1)の第1の1(1)で被告が主張するような、「原告が自力で(米国の法律事務所での)研修先を見つけられなかったので」とか、「被告は、倒産分野では著名な弁護士で旧知の三宅省三弁護士に原告を紹介するなど原告に助力した(第1の2(7))」という主張である。このような主張は、原告が被告に依存しないと弁護士としてやっていけないという発想に基づくものであり、他人を私物化して従属させようとする被告の傲慢な態度を裏付けるものである。極めて不愉快である。事実無根な上に、侮辱でもあり、被告の人間性を物語る。
(2)2について全部否認する
(イ)第一段落について
そもそも、和解が成立したと主張するのであれば、どのような内容で成立したのか、証拠をもって事実を明らかにすべきである。後記第2の6(3)で詳細に述べるが、原告の主張は、被告による1700万円の原告に対する支払は、原告の損害賠償請求を受けて行われたものであり、債務の承認に他ならないというものである。原告はこの弁済を受けるにあたり、賠償金の残金を放棄するとは言っていないし、和解するとも言っていない。これに対し、被告は自ら原告に対して金額を提示し、これを支払っておきながら、はたまた今度はこの支払が原告の不当利得と主張するものであり、支離滅裂であると共に、常軌を逸した主張である。
(ロ)第二段落について全部否認する。
被告のこの主張は、和解契約において原告が秘密保持に同意したという主張であろうか。そうであるならば、原告が秘密保持に合意したという証拠を示すべきである。逆に、2012年7月の一連の交渉の中で、被告は堀内弁護士を介して、「書面に残さないことを条件とする」と提案してきたのである。常識から考えて、1700万円もの金額を相手に支払うにあたっては、当然に被告が原告に対して支払う義務を認めたからであって、法的根拠なくして支払ったとすれば、それこそ弁護士として常軌を逸した行動と言わねばならない。従って、被告の主張する和解契約の債務不履行自体が存在しないし、そもそも債務不履行の前提として原告が守秘義務を負っているとか、事実の指摘が全くなされておらず、主張自体失当である。
被告の主張する「マスコミへの宣伝をすることにより被告の被る有形無形の損害等」については、全く的外れである。原告は、フライデーに被告と原告の記事が掲載されていると聞いて即日コンビニでこれを購入したが、開いた途端被告の異様な形相の写真が掲載されているのにおぞましさを感じ、記事の内容はほとんど読んでいない。
原告も、記者からインタビューを受けたが、この記者は被告にも原告に対するのと同じ質問を書面で送り、インタビューを申し入れたが、被告はこれに対して、只々逃げ回るだけで一切会おうとしなかったと聞いている。被告が本当に自信をもって、原告との間に一切男女関係は無いと主張し、また原告が不祥事を起こし、横領・文書偽造をはたらいて事務所を首になったと主張するのであれば、正々堂々と記者のインタビューを受ければよかったのであり、逃げ回っていたのは被告が自らのした「悪事」が露見するのをひたすら恐れていたからに他ならない。
更に言えば、被告のここでいう「損害」とは何なのか。何もしていないなら兎も角、被告も後述のように態度をコロコロと変えながらも結局原告との男女関係を認めているのである。被告が大手事務所のトップとして名声を享受したいのであれば、この名声にそぐわないことはすべきでなかった、のである。答えは極めて単純である。自分だけが過去においてした行為について社会的な非難をまぬがれると考えるのであれば、まさに傲慢な考え方である。自分のしたことの責任は取るのは社会人なのである。
第2 原告の反論
1 婚約の合意の成立
(1)留学後の原告の心情
当時の渉外弁護士にとっては、米国のロースクールに留学するのが必須条件であった(少なくとも当時業界ではそのように言われていた)が、原告にとっては、結婚して子供を持つことが人生最大の目標であったため、留学を終えたら一日でも早く結婚したいと望んでいた。しかし、現実には、留学前の勤務が3年、その後約2年の留学生活を経て帰国すると、友人はみな結婚しており、中々結婚のチャンスに恵まれる環境ではなかった。
(2)被告からの誘い
繰り返しになるが、このような結婚願望の強い時期であったため、既婚者である被告に最初に飲み会に誘われ、そこで交際を申しこまれたのは、衝撃的であり、かつその時の二人の会話は原告にとって人生の分岐点となるものであって、到底忘れるものではない。
その時、原告は被告に対し、「江尻先生は早くに結婚されてお子様もいるから何も心配無いでしょうが、私はこれから少しでも早く結婚して家庭を持ち、子供を持ちたいのです。」と明言した。客観的に考えても、原告にとって被告は既婚者という大きな障害を持つ人であり、かつ、年齢も一回り以上うえで、到底結婚はおろか、レナ位対象としても考えられなかったし、自らの結婚願望を捨てて被告と不倫に走るなど、夢にも考えられなかった。
(3)被告からの執拗な申し入れ
これに対し、被告は原告に対し、事務所のボスであるという立場を利用して執拗に迫ってきた。最初の飲み会でいきなり行為に及んだうえ、外債発行のヂューディリジェンスで地方出張に行くときは殆どと言っていいほど必ず、原告を同行させた。同行先のホテルでは、入口で待ち伏せして飲みに誘ったり、夜に原告の滞在先ホテルの部屋に電話をしてきたり、原告は「クライアントの費用で出張しているのに、常軌を逸した行動である」と思った。
(4)原告の応諾
もちろん、当時は原告も被告に対し、やさしくて誠実な人柄であると信頼していたし、一緒にいて会話もはずんで楽しかったし、この人となら結婚してもうまくやっていけるかもしれない、と感じていた。また、当時被告は、原告にとって誠実で正直な人に思えたし、事務所のボスという地位にある人が、その事務所に勤務する弁護士に結婚を申し入れるからには、かなり固い決意があるのだろうと信じたのである。
ただ、原告にとっては、万一被告が離婚しない場合は、出口の見えない不倫関係に陥ってしまうこと、年の差が開いているのでお互いに高齢になった時にうまくやっていけるのかということが心配であったが、これを断って事務所で気まずくなることが怖かったため、徐々に交際に応じることになってしまった。
2 被告の作為義務違反(予備的抗弁)
仮に、被告の主張のとおり、被告には当初から結婚の意思などなかったのであれば、あたかも結婚を前提とするかのような言動によって原告を信用させ、よって、原告に金銭的・精神的損害を被らせたのであるから、欺罔による不法行為である。
更に、万一仮に、被告が原告に結婚を前提とした交際の申し入れなどしていないとするならば、被告の一連の行為は、以下の通り不作為による欺罔行為にほかならない。
(1)原告の結婚の意思を無視した欺罔行為
先に述べたとおり、原告は留学から帰国したら早く結婚したいと被告に言っていたし、事務所内でのプライベートな会話でも常にそのことを繰り返していたのだから、原告に被告と不倫関係をもつ意思はなかったことは明白である。しかし、被告は原告に対し、交際当初はもとより、20余年の交際においても、ただの一度も「森さんとの結婚は無理である」と言ったことはない。交際当初にこれを明白にすれば、当然、原告は被告と交際しなかったのであるし、交際が始まって原告をズルズルと不倫関係に引き込んだ後は、さすがの被告も「結婚する意思はない」などとは言えなくなったのである。
30代半ばとはいえ、結婚してそれからの人生に希望をもって生きていこうとしていた原告に対し、被告は男女関係を求めるのであれば、当然に結婚する意思が無いことを正直に伝える義務があったのに、当面の遊びのために原告の人生を台無しにしたのである。
(2)結婚を前提とした原告の金銭的負担
世の中には、なし崩し的に不倫関係に陥り、時が経つにつれて女性の方から結婚を迫るということは多々あることである。しかし、原告にとって被告との関係は結婚を前提としない限りありえないものであったため、いずれ被告が離婚することとなり、家を出なければならなくなったときに被告が困窮しないように、二人で使うマンションを借りたり、家財道具を用意したりして多額の出費をしてきたのである。
原告にとって、これらの出費は被告との婚姻生活の基盤を準備するものであったが、被告が収入を妻と秘書に把握されているので今は払えないと言ったため、当面は原告が立替しておくことになったのである。このように、原告が家賃や日々の生活費を立替することは、いわいる「不倫関係」であれば考えられないことであり、原告がこれを立替したのは、あくまで結婚が前提であるからである。
万一仮に被告が「結婚の申し入れはしていない」とするならば、原告が結婚を夢見て、被告と一緒にマンションの内覧に行ったり、家電製品や家賃を揃えたりしているのを「騙し」以外の何ものでもない。当然に、結婚するつもりがないのだから、意味のない出費はしないよう原告に対して注意すべきであったのに、被告は原告の「誤解」と出費を放置していたのであって、その責任は免れない。
3 交際が継続された原因
このように原告が当初は考えもいなかったのに婚約の合意をさせられ、20年以上もの間不倫関係が続いてしまった要因は、被告が原告の上司であること、被告との仕事によってのみ原告は収入を得ていること、原告の事務所での評判と信用から又、今後も職場が一緒であることからも、結婚を迫ることができず、交際の事実を明らかにできなかったことにある。
(1)婚約の前提条件
原告が被告とした婚約の合意(仮に合意がないとすれば、被告の欺罔行為により原告が合意したと信じたこと)は、当然のことながら、被告が原告との交際は関係なく、妻と離婚することが前提条件である。
正直なところ、この前提条件について、原告のできることなど何もなかったし、何もしてはならない立場であった。原告の当時の心境としても、被告夫婦の離婚について関与することにより、年取った夫婦のゴタゴタに巻き込まれるなど本当に恥ずかしいことであるし、考えたこともなかった。まして、被告夫婦の関係は原告とは全く関係なく、既に破綻し尽くしていると被告が言う以上、原告が介入すべきことではない。
これに対し被告は、原告が強く離婚を要求できないことを十分、力関係でわかっていながら、それに乗じて、長年にわたり不倫関係を強要し、継続していったのである。極めて悪質である。
(2)原告の弁護士としての専門分野の特殊性
①被告が弁護士となった当初から専門としていた業務は、「外債発行」という極めて特殊なものであった。この分野では、原告が当初所属していた友常木村見富法律事務所(当時)と、常松・柳瀬法律事務所(当時)、濵田・松本法律事務所(当時)、青木クリステンセン野本法律事務所(当時)、三井・安田法律事務所(当時)だけであり、これらの五事務所のパートナー合計20名弱が、野村証券、山一証券、大和証券、日興證券の4社が斡旋する外債発行の事務所を順繰りに担当していたのである。原告は外債発行だけを担当することに将来への不安があったため、留学を契機に転職することを考えていたが、それには、外債発行の分野では後発組ではあるが、M&Aなどもやっている桝田・江尻法律事務所(当時)が合っていると考え、就職したのである。
②しかし、入所してまもなく、被告から交際を迫られ、この事務所ではやっていけないと思い、再度の転職も考えたが、それまで訴訟や仮処分もやったことはなく、弁護士としての基本的なノウハウも身に着けていない状態であったため、他の事務所への転職は殆ど無理な状況であったし、今更他の外債専門の事務所に転職するのは狭い業界のことでもあり事実上無理であった。
③従って、原告が弁護士として生活費を稼ぐためには、一旦入ってしまった桝田・江尻法律事務所を簡単にやめることはできなかったのである。被告は、原告の立場のこのような特殊性を熟知していたため、原告が被告との交際を他言して事務所にいられなくなるようなことはしないとタカをくくっていたのである。
4 被告による交際の隠ぺい工作
このように被告は、原告が弁護士であり、事務所の力関係や、弁護士としてのキャリアからも、「原告は絶対に被告との交際を他言しない」と職場内の力関係や、原告の弱い立場の乗じていたのである。しかし、原告がこの「信頼を裏切って」事実を明らかにしようとすると、事実を否定し、原告に対し謂れのない個人攻撃をもって撹乱し、人格を傷つけることによって事態を乗り切ろうと画策してきたのである。
(1)被告の主張の変遷
このように被告が原告との男女関係を隠ぺいしようとしていたことは、これまでの被告の原告との関係についての認否、主張の変遷を見ても明らかである。
(イ)2012年7月の堀内弁護士との交渉時
この面談において堀内弁護士は「江尻さんに依頼を受けたときにこれだけの金額を要求されるということは、男女関係抜きには考えられないと言ったが、江尻さんは否定していましたよ。」と原告に対して言った。また、この交渉の経緯について堀内弁護士が調停期日で提出した2013年9月18日付陳述書でも、堀内弁護士は最新の注意を払って原告と被告の間に男女関係があった事実はない、ということを「示唆」している。
(ロ)調停期日における主張
原告が被告に対して申し立てた婚約不履行に基づく慰謝料請求調停申立事件(東京家庭裁判所平成25年(家イ)第4887号)の最初の期日(2013年7月22日)において、被告の代理人清水琢磨は、開口一番「相手方(被告)は原告との間で、原告が主張するような男女関係は一切ないと言っている」と述べていた。調停は、逃げ回って出席することはなかった。
このように、被告は男女関係を否定する一方、調停員によれば、被告代理人は、「一定の和解金は金額として被告代理人から聞いているが、恥ずかしくて言えないほど小さな金額である。」と述べた。
(ハ)本訴における被告の認否
被告は、原告の訴状・準備書面(1)における男女関係が存在するという主張に対し、準備書面(1)において下記のとおり認否している。
①第1の2(1)
(原告を最初に飲み会に誘ったのちに銀座のバーに誘ったことについて)その後に次回に行ったことは特に記憶がないものの、本訴において争わず争点にしないこととする。
②第1の2(2)
(銀座のバーで飲んだ後、被告がいきなりハイヤーに乗り込んできて、原告がハイヤーを降りたときに被告がいきなりキスしてきたことについて)行為の存在自体は本訴において争わずに本訴の争点にしないこととする。
③第1の2(3)
(被告よりしつこく肉体関係を迫られ、原告は応じざるを得なくなったことについて)行為の存在自体は本訴において争わずに本訴の争点としないこととする。
上記のとおり、被告の主張は、当初は威を借りて高圧的に事実を一切否定し、その後主張が通らなくなってくると「争わずに争点としない」という分かりづらい表現を用いながらも認めるというものであり、状況によっていうことがコロコロと変わるという被告の性格を如実に表すものである。原告と被告間の男女関係については、有ったか無かったかのいずれかであり、曖昧な表現を用いたところで隠しおおせるものではないのである。
にも拘らず、被告は時に虚偽の事実を並べて、又は原告に対する誹謗中傷を交えて、という手段により、原告と長年に亘り交際した事実を何とか隠ぺいしようとしてきた。
(2)堀内弁護士を通じての脅迫行為
①2011年頃から被告は原告からの携帯電話による連絡に対し、一切返事をせず、色々と理由を付けて会うのも拒むようになってきた。そこで原告は2012年7月に原告に対し書簡を届け、「被告が原告と一対一で会いたくないのであれば、誰かに仲裁に入ってもらって話し合いたい」と申し入れた。これに対し、被告は原告に何も返事をせずに、いきなり堀内弁護士を代理人に立てて、原告の事務所宛にあたかも原告が被告にいわれのないゆすり行為をしているかのような文面をファックスで流してきたのである。
②原告の事務所は、小さいながらもパートナーが居て、スタッフも勤務しており、このような文面をファックスで流せば当然原告の事務所内での信頼が傷つき、原告を辱めるものであることを知ったうえで、とった行動である。堀内弁護士も本訴訟に先行する調停における陳述書で、「被告から森の自宅の番号であると指定された番号にファックスした」と述べている。
③更に、その後堀内弁護士との面談においても、被告は姿を現さなかったし、堀内弁護士は「江尻さんは森さんとの男女関係は一切ないと否定している。いわれのない事実を主張して金銭機器要求をするのであれば、こちらにも考えがある。」と言っていたし、「仮に交際の事実があったとしても、大人同士の交際だし、金銭的要求するのなら刑事告訴もありうる」と言っていた。
④原告は、被告が別れたいというのであれば、一度は顔を見て話をすると信じていたので、いきなり弁護士を立てて争ってきたことに愕然とした。また、原告は刑事告訴される理由はないが、むしろ、20余年にも亘って被告が約束を守らなかったことを隠蔽し、原告がストーカーのような行為をしたと言われたことに大変なショックを受けた。被告が約束を守らないことは長年の付き合いの結果分かっていたが、逆に、原告の人格を否定し、あたかも強迫行為をしているように言われるとは、夢にも思っていなかったのである。
⑤このように、被告は事実の隠ぺいによって、自らは約束を守らないにも拘わらず、原告に秘密を守らせようと画策した上で男女関係を強要し、最後には原告が自らの権利を守るために事実を明らかにしようとすると、今度はいわれのない個人攻撃をもってかく乱しようとしている。このような原告による権利主張を妨害しようとする行為は、被告の「自らの立場を守るためにはなんでもする」という余りに身勝手な考え方によるものである。
5 スイスフラン債の件
スイスフラン債のトラブルにおいて、被告が原告を騙し、1750万円の負担をさせたこと、また、その解決に至る間に、実際は事務所内外において全て原告の責任であると主張していたことは、原告との婚約関係を利用した加害行為である。
(1)責任の所在
このスイスフラン債の発行手続きは、発行会社A社が日興スイスから提案された引受契約と社債の要項を検討したうで、合意内容の通りの発行決議を行い、A社の弁護士(原告と被告)がこの発行決議の議事録を英訳して日興スイスに送付し、その確認を得たうえで払込をするというものである。しかし、この件においては発行決議の内容と、引受契約の内容に齟齬があったため投資家に損失を被らせたことが問題となった。
しかるに、原告が日興スイスの弁護士に送付した発行決議の英訳に間違いはなかったし、原告も被告もスイスで引受契約が調印される際に現地には行っておらず、事前にファックスされた契約書ドラフトの段階では、引受契約の文言と発行決議に齟齬は無かった。
従って、原告は、本来、この投資家の損失について、発行会社A社側の弁護士である原告・被告が賠償責任を負う理由は無かったと考えていたし、その通りの主張をしていた。
(2)スイスフラン建社債のトラブルの時
①既に述べたとおり、被告は、A社発行のスイスフラン債のトラブルについて、被告が事務所の長として責任があることを理由に、本当は原告と一緒に戦いたいが、やむを得ず、対外的には被告には全く非は無かったことにするよう、原告に指示していた。
②しかし、さすがに原告も、この件がだんだん事務所の内外で噂になり、このままでは事務所を辞めざるを得ないことになるという危機感をもち被告に対し、「事務所内でも森がした失敗と思われている。これ以上は、耐えられないので事務所は辞めるが、その前にパートナー会議ですべての事情を話したい。」と申し入れた。
③これに対し被告は「全てを話したい」という原告の言葉にあわてふためき、「順子先生の立場は絶対に俺が守るから、当面、この話は事務所内ではしないほうがいい。話せば逆に糾弾される」として、原告に弁明の機会は与えなかった。それどころか、被告準備書面(1)と(2)において述べているとおり、被告はこの件の責任の一切を原告に負わせ、そのほか原告は不祥事を起こしていたとし、原告が事務所に居られなくした。
④具体的には、A社の件をパートナー会議で説明するにあたって、被告は「森さんは呼ぶまで会議室から出ていなさい」と申し付け、原告不在のまま事の経緯を説明していた(パートナー会議の議事録が正確に記載されているのであれば、この日の議事録には被告の中途退場の指示とパートナーに対する説明内容が明らかになるはずである)。また、原告が横領したという件についても、被告は原告の不在を奇貨としてパートナー会議で原告に対し謂れの無い糾弾を行ったのである。
⑤その結果、原告は他のパートナー全員から「日興證券の件でトラブルを起こした」というレッテルを貼られ、到底事務所には居られない状態になってしまい、ついには非難だけを浴びて事務所を辞めることとなった。結果として、被告は原告の名誉を汚すことによって、意図したとおり自らの保身を図ることができたのである。
(3)弁護士賠償保険の保険会社の判断
スイスフラン債を購入する投資家は、所謂「黒目の投資家」と呼ばれる日系企業が多かったが、本件においてはその一部を米国ヘッジファンドが購入しており、このファンドが発行会社に対して損失約5000万円の補填を要求してきたのがことの発端である。この要求の矛先は、A社から直ぐに旧あさひ法律事務所に向けられてきたが、被告はファンド担当者からの電話に一切出ず、全て原告に対応させた。そのうえで、被告は原告に対し「対外的に森さんが責任を負うという前提で動くしかないので、この賠償金5000万円については、森さんが自分で調達して払うしかない」と指示してきた。原告は余りに大きな金額であり、このような金額を調達することなど不可能であるため、断ったところ、被告は原告に対し弁護士賠償責任保険に保険金の支払を申し入れるよう指示した。
しかし、損害保険会社は、原告から事実関係を聞き取り、契約書を精査した結果、「原告には賠償責任が無いので保険金は支払えない」と通知してきた。
(4)調停成立の経緯
調停手続きでは、当初は被告も責任がないと主張していた。しかし、手続進行中に、日興證券の専務と常務が事務所をいきなり訪ねてきて「このまま調停が成立しないようだったら、今後一切うちはあさひ法律事務所には仕事は出さない」と通告してきた。
被告がどの時点で急に立場を変えることにしたのか、原告にはわからないが、調停の最終段階で被告は急に立場を変え、賠償金の一部を負担することにしたのである。
原告はどの当時においても、現在においても、A社の代理人が理由のない負担をするのは依頼者のためにならないし、代理人自身も汚名を負うことになるので禍根を残すと考えていた。
しかし、被告は原告に対し、事務所内では原告の立場が傷つかないように守ると言ってくれていたので、これを信じていたため、最終的には賠償金の一部を負担することにしたのである。原告はA社から直接依頼された弁護士ではないし、むやみに責任を認めても将来経歴に禍根を残すだけであり、正直、賠償してでも事を収めたいという意図は全く無かった。にも関わらず、原告が責任の一部を負担したのは、まさに将来被告と結婚する事を約束していたことが前提である。何もない弁護士同士であれば、自らの意思に反して1750万円もの金額を負担(実施には藤本弁護士の尽力によりのちに保険金が支払われたので750万円)するのは全く異常なことであり、750万円と言っても原告にとってはすぐに動かせる金額ではなく、大金であるのに、その支払に応じたのは正に、被告が将来結婚する相手であって助けなければならないと考えたからである。
この時点で、被告は原告と結婚する意思など全くなかったのであれば、まさに原告の結婚できるという誤信を利用して支払わせたものである。
(5)調停の結果について
損害保険会社から見ても原告には賠償責任はないという判断であったし、逆に安易に責任を認めれば依頼者であるA社にも不利益を及ぼすことになる。
しかし、被告は日興證券の役員からの通告に極度におびえ、依頼者がA社であることも忘れ、ひたすら早急に調停を手じまいして日興證券との関係を修復することしか頭になかったのである。このような解決は、依頼者の危機管理を担う弁護士としては最悪の判断である。
6 和解契約の不成立
原告は準備書面(1)と(2)において、2012年7月時点での和解の成立を主張するが、この点について以下のとおり反論する。
(1)原告からの一連の申し入れ
(イ)借入の申し入れ
①2011年頃から突然何か月も連絡が取れなくな理、さすがに原告も被告に結婚の意思などないのがわかってきた。別れたいのであれば、20年も付き合った相手に別れの意思を会って伝えるのが常識であるのに、電話一本かけることすらせず、なし崩しに関係を終了させるとは思ってもいなかったので、原告は「このままでは、これまでの私の精神的・金銭的犠牲は全く意味がないことになってしまう。」と当惑するとともに、かなり感情的に不安定になってしまった。
②それまでは、原告から被告に対し、携帯以外の方法で連絡したことなど無かったが、やむを得ず2012年7月16日に携帯メールで5000万円の借入を申し入れ、同7月20日に被告の事務所宛に親展の封をした書簡を送付した。この時点では、被告の友人である濱田弁護士か、三宅能生弁護士という被告側に近い人でもよいので、原告と被告の関係について知ってもらい、より良い解決策のアドバイスをもらいたいと考えていた。
また、借入の申し入れをしたのは、原告がお金が欲しくて被告に何度も連絡をしているとは思われたくない、被告に「どうせお金の話だろう」と軽蔑されたくないという気持ちと、もしかしたら復縁してお金の問題は解決できるかもしれない、ということで借り入れという言い方をした。被告と会って話し合えば冷静になり、立替出費をしてしまった金銭について精算について仲裁者からのアドバイスももらえるのではないかという期待もあったからである。
(ロ)賠償請求
①ところが、同年7月24日に被告の代理人と称する堀内弁護士からいきなりファクシミリが送付され、原告はびっくりするとともに愕然としてしまった。男女の交際の場合、いくらなんでも一度位は会って関係を終了したいと言うのが常識であろうに、被告は散々原告からの連絡を無視したうえで、いきなり弁護士を立て、しかも被告の事務所にファックスを送りつけてきたのである。これでは驚かない方がおかしい。被告は公然と恥をかかされた。事務局や同僚弁護士にも見られるファクシミリだったからである。
②なぜ、被告はそこまで原告と会うのを拒否し続けているのか、それは正に20年以上もの間原告をだまして内縁関係を継続させ、挙げ句の果てにその費用まで負担させ続けてきたことが後ろめたいのか、あるいは原告が怒って被告との関係を他人にバラすのが怖かったのであろう。
このような被告の卑怯な態度に怒った原告は、7月25日に堀内弁護士と面談した際には、「原告がこれまで被った経済的損失の損害賠償を求める」とストレートに要求した。
原告はこのファクシミリを見て初めて、被告が当初から原告と結婚する意思など無かったことを認識した。結婚という約束を餌に、原告に意に沿わない男女関係を継続させ、経済的負担までさせられたという被告の行為は許しがたうえに、問題が起これば自ら原告に会って話すことすらせず、ひたすら逃げ回った上に代理人を使って高圧的な態度を示し、原告を黙らせようとする態度に怒り心頭に達したのである。
(2)堀内弁護士との協議
7月25日の堀内弁護士との会合には、被告は姿を現さなかった。ヤメ検である堀内弁護士は原告に対し、刑事告訴するとか、原告の両親に話して説得してもらうぞとか、脅迫罪、強要罪に該当することを言った、これに対し、原告は「被告が弁護士を付けてきたのだから、最終的には原告も弁護士を立てて話し合いをする」と告げたのである。
(3)被告からの1700万円支払の申し出
被告は、その後原告との間で和解が成立したため、1700万円を支払ったとするが、原告・被告間に和解は成立していない。
(イ)7月25日付の原告のメールについて
①原告が被告に対し書簡を届けた7月20日以降は、被告は原告からの携帯メールは全部着信拒否にかけていたし、携帯電話にも出なかったのである。
②原告は、堀内弁護士との協議の前後から、何かと被告に連絡して直接話し合いをしたいと思い、拒否されるたびに原告発信元のメールアドレスを変更したり、留守電に何度もメッセージを残したりしていた。この(原告は不達と思っていた)メールの一部が被告の携帯に到着していた可能性は否定できないが、被告が指摘する7月25日付のメールの発信記録は原告の携帯端末には残っていないし、(株)NTTドコモに問い合わせた限りでは、バックアップもされていない状態であるし、この内容のメールを送信した記憶もない。
③しかるに、乙16号証の「原告の発信メール」とされるものは、被告から堀内弁護士宛に送信されたものであるし、時間も18:14分であるが、この時間帯は原告は依頼者であるB社の担当者との夕食会に出ていたのである。この日時をはっきりと原告が記憶しているのは、B社との懇談中に堀内弁護士から携帯に電話がかかり、「江尻さんが1700万円支払うと言っている」と伝えてきたからである。
このように、被告が和解成立の根拠として主張するメールは、その真偽があいまいであるし、仮に真実だったとしても、原告が被告に対して送信した一連の内容が相互矛盾しているメールのほんの一部である。
④弁護士であれば、1700万円もの金額を支払うにあたり、真に和解が成立したのであれば、合意書を作成するなり、本人に真意を確認するなり、何らかの証左を残すのが常識であって、誰から来たのかわからない(もしかしたら、存在しない)メールを根拠にこれだけの金額を支払うのは極めて不自然である。
(ロ)原告の一部金支払受領の合意
先のとおり、7月25日の17:30から、原告は依頼者B社の担当者と料亭の個室で会食していた。その最中に堀内弁護士から電話が入り、「江尻さんが森さんの要求通り1700万円支払うと言ってきた。支払うにあたっては、何も書面に残さないのは条件である。それでよければ至急振込先の口座番号を知らせてほしい」と言ってきた。原告は、依頼者がいる部屋での会話なので、「そうですか。わかりました。連絡します。」としか言えなかったし、その時点で個室の中で長々と会話したりもしなかった。
このとおり、原告が被告から1700万円を受領することに合意したのは事実である。しかし、これは1700万円をとりあえず受領することについての合意であり、それ以外に残りの権利を放棄するとも言っていないし、それで満足とも言っていない。
この交渉過程において、被告は書面を残さないことを何度も条件として強調していたが、これは、原告との交際関係を第三者に知られなかったことの一点であり、1700万円の支払いが被告の原告に対する賠償金の一部の意図であったのだろう。
なお、原告がこの金額を受領したのは、被告がこの期に及んで、原告に対して男女関係があったことも否定しているため、今後の紛争解決のために、被告が賠償金の一部を支払った証拠を残したかったためであり、その余の請求を放棄する意図は全くなかったし、事実放棄の意思表示もしていないのである。
7 時効について
被告と原告が結婚を前提として交際を開始したのは1992年であるから、原告の債務不履行に基づく損害賠償については10年の時効(民法167条1項)、予備的主張として不法行為に基づく損害賠償については20年の時効(民法714条)だと言うのは主張自体失当である。
(1)債務不履行(不法行為)の継続
原告は、被告の婚約不履行により損害を被ったと主張するものであるが、この結婚の約束が履行されなかったことにより、また(仮定の抗弁として)仮に結婚の合意が成立していなかったとしても、20余年に亘り、係る債務不履行(不法行為)を継続したことによって、原告に対し金銭的かつ精神的損害を被らせたのである。
(イ)精神的打撃の連続
繰り返しになるが、原告は、被告と妻との婚姻関係が原告と知り合う前に破たんしていたという被告の言葉を信じて被告との交際に及んだのである。また、原告は、自ら被告夫婦の離婚原因になるなど、あってはならない事であると固く決意していたので、被告との交際の事実を20年間誰にも漏らさずに秘密を守ってきたのである。
被告も、原告が弁護士で分別ある年であること、原告の誠実な人柄を「見込んで」、決して秘密は洩らさないと信じていたのである。
しかし、被告は原告のこの我慢に乗じ、ややもすると無神経に「IPBAの会合で『江尻さんは森さんとできているんだ』と言われたとか、「クライアントが『江尻さんが若い女性を連れて歩いているのを見たよ』を言われちゃった」とか、原告が長きにわたって結婚できないことを悩み、世間に恥じていることなどお構いなしに、人を傷つける言葉を繰り返したのである。
他方、原告が被告との出口の見えない関係に苦しんだ挙句、別れたいと言うと「順子先生のことは本当に大事にしたいと思っているし、約束は必ず守るから」と言ったり、具体的に原告と暮らすマンションの下見に行ったと言ったり、原告の精神状態をかく乱して何ら心の痛みを感じない言動を繰り返していたのである。
(ロ)履行遅滞の継続
原告が被告とした婚約の合意債務不履行及び仮に合意がないとすれば、被告の欺罔行為により原告が結婚できると誤診させた不法行為は、当然のことながら、被告が原告との交際は関係なく、妻と離婚することが前提条件である。
原告が被告との交際にやむなく同意したのは、被告がこの前提条件がすぐにでも成就するかのように言ったことが原因である。しかし、現実には、被告には初めから離婚する気などなかったのに、「離婚する」という前提条件が成就しない状態を自ら継続せしめ、原告の「誤解」に乗じて男女関係を強要し続けたことにある。被告は、原告が被告に対し「債務の履行」を要求できないことを奇貨として、長年にわたり不倫関係を強要し、継続していったのである。
このような被告の行為は、原告に対する債務の履行を意図的に不能ならしめるものであり、また仮に原告との結婚の合意を否定するのであれば、原告が被告の言動により陥った錯誤を利用した欺罔行為である。このような欺罔行為は、婚約の合意時点で完了するものではなく、その後に原告の錯誤を利用して男女関係を強要するという行為の継続があり、その間、事項は進行しない。(ハ)人生の選択肢の喪失
①しかし、本件の場合、結婚の約束(または約束を履行すると言い続けられ)が前提であり、かつこの前提条件の成就は被告だけの意思により行われるもの(原告が離婚には関与できないもの)であるため、原告にとってはいつ債務が履行できるかもわからず、権利を行使できる状態には至っていなかったのである。事実、被告は現在に至るまで、原告に対しては自分は離婚する意思がないことを通知していない。このように、実施には何も進展しないのに、期待を持たされて男女関係を継続させられ、それでも黙って我慢するしかない状態は、原告にとって地獄のような日々であったし、時を経るにつれて、人生の選択肢もますますなくなっていったのである。その間、損害は加速していく。
②原告にとって、被告との交際を続けたまま、他の男性と交際することはその人に対して不誠実であるし、考えられないことであった。30代半ばを過ぎても、お互いに好意をもつ人が現れても、被告が邪魔をするし、その行為で被告との結婚の約束が履行されるのかと考え直し、新しい人間関係を作り、結婚するという選択は被告によって奪われていた。それも新たな損害となる。
③40代となり、50代となり、原告は自らが置かれている「被告との不倫」という現実に打ちひしがれ、子供をもつことも諦めるしかなくなり、最後には希望していた人生の選択肢である結婚の機会そのものを失うことになったのである。子供を諦める年齢になったことで、又、新しい損害が発生する。
④原告が自分の将来(結婚の約束が履行されずに年だけ取ること)や、原告自らが関わる人(新たに結婚を申し入れてくれた第三者はもちろん、原告が早く幸せになることを切望していた両親)への誠意を大切に考えれば考えるほど、年を重ねた苦しみだけが重くのしかかり、願っていた幸せは遠くなっていったのである。まさに蛇の生殺しの日々である。
⑤このような状態において、時効の要件であるその進行開始、すなわち権利を行使しうる時期とは、被告が債務を履行する意思がないことを知った時(2012年7月)であるから、その時点まで時効は進行しない。
(2)債務の承認
2012年7月25日の堀内弁護士との協議において、原告は前記の通り借入の申し入れを撤回し、権利として、被告が原告に及ぼした損害の賠償を請求している。これに対し、被告は、あわてて事態を収拾しようとし、かつ、書面による同意をしないことを条件に、原告の損害のうち1700万円を支払ったのである。
従って、係る1700万円の支払いは、被告による原告に対する債務(損害賠償責任)の承認に該当する。このように、仮に債務不履行による消滅時効が10年を経て完成していたとしても、被告が債務を承認した以上、その消滅時効を主張することは許されないのである。
以上